怪説!? '04 Audi R8 Team Goh (Winner)

'04年のル・マンを制したチーム・ゴウのAudi R8です。
 '05年1月に開催されたオートサロンにて、実車が展示されていましたので、各部をチェックしてみましょう。
 展示車両は、最終ドライバーを勤めた荒 聖治が、チェッカー・フラッグを受けたシーンを再現しているようです。両手を高く突き上げています。
後ろから見ると、こんな感じ。やっぱりこの年のモデルの目玉は、ウィングにつけられたシューズボックスでしょう。

 '03年までのレギュレーションだと、リアウィングの幅は2mと決まっていました。
リアウィングは、その上面を空気が通過する事に因って、ダウンフォースが発生するのは確かですが、その他にも、下面に良好な負圧領域を作り出し、ボディ後端のディフューザーから効果的に空気を吸い出す事により、ダウンフォースを発生することができます。
 '02年以降のR8では、このウィング下面を通過する空気を整流する為、ボディからリアウィングに向けて垂直尾翼が着けられていました。

レギュレーション上、リアウィングに着く翼端板は、15cm×40cmと決まっている為、この垂直尾翼は違反になるんですが、実は翼端板と垂直尾翼には5mmの隙間が空いているのです。走行中はダウンフォースによりリアウィングが下に押し付けられるので、この5mmの隙間がゼロになり、優れた整流効果が期待できます。ところが、'04年のル・マンでは、新レギュレーションが発足。新レギュレーションマシン(LMP1)よりも旧レギュレーションマシン(LMP900)の方が速い為、性能調整の為にLMP900のマシンにはハンデが課せられました。その内の1つが、10%幅の狭いリアウィングの装着でした。この為、それまで2m幅だったリアウィングは、左右が10cmずつ縮小され、1.8mとなりました。
 
前述の通り、垂直尾翼はウィング下面を通る空気を整流する事に因り、車体下を通過してきた空気をより効果的に排出する為に存在します。特にR8のように高い位置にウィングを備えるマシンでは非常に効果的で、これがあるのと無いのとでは、空力性能が大きく異なります。新レギュレーションにより、幅が20cm狭められたウィングを装着すると、この垂直尾翼とウィングとの間に、左右10cmずつの隙間が発生します。まぁ、これでも垂直尾翼が無いよりはマシなのですが、より優れた整流効果を期待するなら、この狭められたリアウィングと垂直尾翼の間を埋める(繋げる)必要があります。
そこで開発されたのが、翼端板と垂直尾翼を、2枚の板で繋げてしまおうというもの。繋げた部分が「ウィング」と認識されてしまうとレギュレーション違反になる事から、はっきり言ってかなりきわどいものですが、ACO側はおそらくこんな事を想定していなかったのでしょう。抵触する文面がレギュレーションブックに記載されていなかったのか、この2つの板は、単なる「構造体」として認めるしかなかったのだと思います。
 こうして取り付けられた2枚の板。囲われた部分が靴箱に似ている事から、「シューズボックス」と名付けられました。4月に行われたLMESのポールリカールでのテスト後にACOに認められた為、以後、他のチームのマシンにもこのシューズボックスが挙って付けられるようになったのでした。
リアウィングは支柱に直接留まっているのではなく、右のようなカーボン製のステーを介して留められていました。
フロント側だけボルト穴が3つありますが、その内の2つは使われていませんでした。もしかしたら、ウィングの種類に因って、ステーとの取り付け位置が違うのかもしれません。
ミニカーでは、この部分は色分けする事で再現していました。
シューズボックス内にボルト穴が空いてました。これでウィングの角度を調整するのだと思われます。
これを見ると、4段階の調整なのでしょうか?現在は上から2番目を使用していました。
垂直尾翼により整流されたウィング下面を通った空気は、負圧を発生する事により、車体下を通ってきた空気を効果的に吸い出します。
この、車体下を通ってきた空気を効果的に排出する事により、強力なダウンフォースが期待できます。
 その為に取り付けられているのが、いわゆる「ディフューザー」。
フラットボトムの車体下を通った空気は、ボディ後方に従って上方に傾斜されるディフューザーにより、整流されて後方に吸い出されます。この時、強力なダウンフォ−スが発生し、マシンは地面に吸い付けられます。
写真奥がフロント側、手前がリア側です。傾斜するディフューザーに生々しい傷跡が残っています。
で、こちらがディフューザーの出口付近。上方に傾斜しているのが分かって頂けると思います。

出口の拡大写真です。
意外とシンプルな造形です。
ディフューザーと言えば、その昔F1でマクラーレンが採用していた通称「バットマン・ディフューザー」を思い起こしますが、アレと違って、ずいぶん単純です。
ついでにもう1つリア廻りの写真。
リアタイヤの後ろは、メッシュになっていて、タイヤが掻き出した空気は、ここから排出されます。ブレーキ冷却効果なんかも期待できるんじゃないでしょうか?昨年辺りからJGTC(現スーパーGT)を走るマシンにも見られる造形ですね。
前述のシューズボックスは、確かにボディ後端を通過する空気を整流しますが、一方、この構造物の存在自体が、ドラッグを発生する事にもなります。そこでドラッグの削減を目的に改良されたのが、R8の特徴の1つである独立したフロントフェンダー部分、通称「エレファント・フッド」。
'01年以降のR8は、ノーズ下の空気の吸い出しを促進する為に、独立したフロントフェンダーを持っています。
ノーズ下を通過した空気を側面に逃がすと、そこで負圧が発生し、それに因ってフロア下の空気を排出させる事ができます。こうするとフロントのダウンフォースを増加させることができます。つまり、適切にノーズ下の空気を逃がす事が、フロントのダウンフォース量に大きく関わるのです。
ノーズ上方を左右に別れた空気は、コクピット左右にあるラジエターに向かって進みます。ラジエター開口部が左右に2分割されていますが、これはミニカーでも再現されてました。
フロントノーズ左右を通過した空気はラジエターに入りますが、一部は、切り取られたフェンダー後端から、外へと吸い出されて行きます。この「切り取り」が「独立したフェンダー」と呼ばれる由縁です。当初R8が発表された時は、フェンダーの内側と外側は繋がっていなかったのです。
また、ノーズ部分から侵入した空気は、
フロントブレーキの冷却ダクトに引き込まれ、フロントサスペンションやらロッドやらの下を通過した後、フェンダー後端の切りかき部分からボディ外側に排出されます。
この部分も、ミニカーではきちんと再現。流石にアーム類は無理ですが、きちんと空洞が存在します。よく見ると、左右輪を繋ぐシャフトが見えますよ。
つまり、ノーズ下を通った空気は、ラジエター類にはほとんど入らず(ラジエター開口部が上側にしかないから)、全てが外側に排出される仕組み。だったら、ノーズ上を通過した空気との仕切りを、切りかき部分まで持ってきちゃって、出口部分を上下二分割にしても良さそうですが、そうするとノーズ下を通過した空気を逃がすのに、ノーズ上の空気の流速に因る負圧の利用効率が低くなるのでしょう。
なぁんて、エラそうな事書いてますが、ホントの所は分かりません(笑)。
フェンダー後端の切りかきをフロント側から見た所。凄くきれいなアールを描いているのが分かります。シューズボックスを取り付けた事に因って発生したドラッグを低減する為、このエレファント・フッドは、'04年モデルでは形状が改められ、切りかき部分がより後ろに延ばされたて従来のモデルに比べて、細長くなりました。
なお、フロントフェンダー内に入った空気は、フェンダー上部にあるスリットを通って、ボディ上面に排出されます。これはまぁ、レーシングカーとしては古典的な手法。その昔、ザウバー・メルセデスC9がル・マンを走った時には、フロントのダウンフォースを低減する目的で塞いでた事もありました。要は、フロントとリアのバランスの問題なんですね。
リアフェンダーアーチ上にあるのは、リアのブレーキ冷却用の空気を取り込む為のダクト。ブレーキ側のエア入り口は、もう少し車体内側にあるのですが、ダクトを内側にしてしまうと、ボディ上を流れる空気の流れに影響を与えてしまうので、端に寄せられてます。

フラッシュを当てたら、国旗が反射してしまいました。このように、24時間レースを実施するル・マンでは、夜間にマシンを識別し易いように、ゼッケン等が反射するようになってます。

これがコクピット。ボタン類が所狭しと並んでいます。試しにミニカーと比べてみましたが、再現性はそれなりって所です。まぁ、雰囲気は掴めるかな?と。エンジンのキルスイッチ、スタータースイッチを示すデカールは、左側に貼ってあります。これはミニカーでもちゃんと再現されてました。

 真ん中に通ってるのは、ヘルメットホルダー。ドライバー側に行くに従い、大きくなっていきます。このヘルメットホルダーは、それ自体がフレームの役割も果たしており、高剛性を得ることができます。

コクピットを左から覗いた所。
レース終盤、ピットアウト時に火災が発生した、問題の給油口。あの時はホントに焦りましたが、無事にピットアウトできて良かったです。ちなみに、給油口の淵のデザインが、昔のモデルでは完全なオーバル形状でしたが、その後、現在の形状に変更されました。

前述のヘルメットホルダーが、ドライバー側に行くに従い大きくなっているのが分かります。

荒 聖治、リナルド・カペッロ、トム・クリステンセン、そして郷 和道監督、優勝おめでとうございました。いつかまた、近い将来サルテ・サーキットに戻ってきてくれる事を信じています!!